スピリチュアルとは一般的に、「霊的であること」を意味します。
近年、世間では当たり前のようにスピリチュアルと言う言葉をよく耳にしますが、その意味は漠然としていてあまり理解されていません。
そこで今回は、スピリチュアルについて簡単に解説します。
実は、日本で一般的に認識されている「スピリチュアル」の意味は、本来の意味から考えると「異常」といえます。
ここからは本来のスピリチュアルの意味と、日本のすこし異常なスピリチュアルの在り方を比較して説明していきます。
1. スピリチュアルの本来の意味とは
スピリチュアルとは、もともと3つの意味を持つ言葉です。
- ゴスペル音楽などで知られる黒人霊歌を意味する
- 霊的な世界を重視する価値観やライフスタイルを意味する
- 霊現象全般を探求するスピリチュアリズム(心霊現象)を意味する
本来は上記3つの意味をもつスピリチュアルですが、日本でいう「スピリチュアル」は「2.霊的な世界を重視する価値観やライフスタイル」という限定的な意味を指します。
1.1 英語の語源から考えるスピリチュアルの本来の意味
スピリチュアルは、英語のスピリット(Spirit)が語源の言葉です。 スピリットは元々ラテン語のSpiritus(息、呼吸、魂、勇気、活気など)に由来しています。
キリスト教では、人間を形作る三要素として、身体(Body)、心(Mind)、Spiritが挙げられていますが、Spiritは「神によって吹きこまれる息の中にあると考えられた生命の根源=生気」であり、私たちの存在を根底から支えるものであるとされています。
主なる神は、土(アダマ)の塵で人(アダム)を形づくり、その鼻に命の息を吹き入れられた。人はこうして生きる者となった
-創世記2章7節より引用
本来のスピリチュアルの意味は、霊的、精神的、超自然的で、それはキリスト教と深くかかわっています。
神はいつも心の中やそばにいて、絶えず”私”を見守っている存在です。そして、過ちがあったら気づかせてくれる存在です。だから、欧米の人は「いつも神がそばにいる」という感覚なのです。
欧米の人達は、生まれてすぐに洗礼を受けたり、食事の前に感謝のお祈りをしたりします。また、自分の周りの人に、なにか良くないことが起こると「神のご加護がありますように」と言います。良い事があれば、神さまに心から感謝します。
生活の中にそれだけ根付いているように、いつも心には「神さま」がいます。目には見えない神に、自分を丸ごと全部委ねて、自分は神に守られている存在だと認識しているのです。
そうした神に対する感謝の気持ちや謙虚な気持ちが、スピリチュアルという言葉で現代まで受け継がれています。
これを裏付ける面白い話があります。けっこう前に、日本のテレビCMで、森の中で「誰もいない。でも僕は捨てない」と男性が言い、携帯の灰皿にタバコを入れ、マナーを守りましょうとテロップが流れるものがありました。
海外の人が見たら、このCMの意味が分からないそうです。日本人は人の目を気にするので、人が見ていなければ小さな悪いことをしがちですが、海外の人は人の目ではなく、「神の目」が見ているので、人がいようがいまいがマナーを守るからなのだそうです。
スピリチュアルをWikipediaで調べてみると、次のようなことが書いてあります。
英語のスピリチュアル(英: spiritual)は、ラテン語の spiritusに由来するキリスト教用語で、霊的であること、霊魂に関するさま。
英語では、宗教的・精神的な物事、教会に関する事柄、または、神の、聖霊の、霊の、魂の、精神の、超自然的な、神聖な、教会の、などを意味する。ーWikipedia「スピリチュアル」より引用
スピリットは個々の人間やそれに宿る霊的なもの、スピリチュアルは、人間や自然、地球、宇宙、そして神を含む広義的なものに対しての意味と言えるでしょう。
1.2 ニューエイジとスピリチュアル
現在の日本のスピリチュアルは、アメリカで発生したニューエイジ運動の流れでの「今ここ」、「目覚め」や「宇宙とのチャネリング」から、影響を受けています。
ニューエイジとは、アメリカ西海岸を拠点に1960年代に始まった、西洋と東洋の精神的文化の融合を目指した運動です。ニューエイジが起こるきっかけは、ベトナム戦争帰還兵のための、社会復帰支援が目的でした。
ロバート・デニーロの名作、映画「タクシードライバー」をご存知でしょうか?ベトナム帰還兵の青年が、戦争での精神的なトラウマを抱え続け、社会生活に馴染みきれない姿を描いた、社会への問題提起作品です。
事実、こうした若者は当時のアメリカに溢れていたようです。アメリカはベトナム帰還兵の精神的ダメージを救うため、インドや東洋の思想を取り入れ、あらゆる角度からベトナム帰還兵を精神的ダメージから救おうと試みました。
その際アメリカには、インドのヨガや中国の気功など、宗教にこだわらず、様々なワークやスピリチュアルな教えが入ることになりました。同時に反戦運動の気運が高まり、ヒッピーカルチャーに影響を受けた若者の間では、キリスト教以外の宗教への関心が高まりました。
若者たちはヒッピーと呼ばれ、当時合法だったLSD(幻覚性薬物)などを使用し、精神の開放や変性などの、精神を重視したメンタリティや物質への無関心などが広がっていきました。
ヒッピーカルチャーは、伝統や制度など、従来の価値観に縛られた人間生活を否定し、個人の魂の開放を信条とし、愛と平和を訴え、自由に生きるというスタイルです。
これとニューエイジのキリストの終末論が親和性を持ち、多くの若者に受け入れられました。ニューエイジは近い将来裁きの日が訪れ、古い世界が滅亡し、新しい愛と平和、調和の時代、また霊性の時代が始まるとしました。
新しい世界は、選ばれし”目覚めた人”によって始まるという考えが、その思想の基底にあります。ニューエイジ運動は、瞑想や密教、ヨガ、神秘主義、超能力の開発から占い、超常現象などのオカルトにまで及びました。
ニューエイジ運動の流れには、ある根拠がありました。それが、1962年、アメリカ・カリフォルニア州に設立された、エサレン研究所です。エサレン研究所は西洋と東洋の合流、古代と現代、学問と芸術の統合を目的とした、宿泊教育研究センターです。
ここで行われたのは、「今ここ」という概念を有名にしたゲシュタルトセラピーをはじめとした、精神性を重視した、これまでにない新たなカウンセリング手法でした。そのほかにもネイティブアメリカンをはじめとする、世界各国の先住民族の研究、各心理学、瞑想、アート、シャーマニズムやヨガなどが導入され、世界中のスピリチュアル文化の発信地となっていったのです。
60年代は心理学やヒッピーカルチャーをベースにしたニューエイジ運動でしたが、80年代以降は更に、交霊術や宇宙とのチャネリングなども含めた、より幅広いものへと発展していきました。
そして90年代にはチャネラーであるダリル・アンカが来日し、地球外生命体の意識体「バシャール」が、日本で大ブレイクしました。バシャールによるポジティブ・シンキング論(宇宙哲学)は、多くの人に受け入れられ、日本中に浸透しました。
バシャールの代表的メッセージ、「ワクワクしましょう!」は現在のスピリチュアルユーザーの間で今も健在です。
2. 日本のスピリチュアルは異常!?
現代の日本でのスピリチュアルは、本来のキリスト教的なスピリチュアルの意味や考え方からかけはなれて、スピリチュアルビジネスに代表されるように、現世利益を求めたビジネスとしてのスピリチュアルが非常に盛んになっています。
ニューエイジからの影響を強く受け、本来のスピリチュアルの意味とは少し離れた位置にいるようです。日本にも古の昔から、山岳信仰や自然崇拝などがありますが、それとも一線を画しています。
2.1 日本のスピリチュアル?「精神世界」
日本のスピリチュアルの発端は、「精神世界」と呼ばれるものです。精神世界とは、科学によってその存在を否定され続けてきた、魂や人間に内在する力の存在を探求し、日常生活をより豊かにするための活動やライフスタイル、概念の総称です。
精神世界の概念は、目に見える世界だけを重視してきた、近代文明や科学へのアンチテーゼとして生まれたとされています。また、精神世界の重要なテーマの一つとして、科学では証明できない、霊的な存在と人との関係性に対する探求があると考えられています。
精神世界と宗教との違いは、宗教が神や仏への信仰から成り立っているのに対し、精神世界は人間すべてに内在している秘めた力の存在や、可能性の追求を主眼にしているところだと言えます。
この精神世界の概念と、ニューエイジの「本当の世界や本当の私は、この現実世界ではなく、どこか違う世界にある」というグノーシス主義や、インド思想の元となるヒンドゥー教を取り入れた、現実世界(物質世界)や肉体よりも霊性=スピリチュアルこそ本来の自己であるという主張が融和し、「スピリチュアル」として日本で広まったと考えられます。
2.2 日本版スピリチュアルの象徴?江原啓之氏
江原氏は、日本のスピリチュアルにおいて、「スピリチュアルの意味」を確立した立役者と言えます。
江原さんといえば、相談者の守護霊と会話し、相談者の今後の生き方をアドバイスするニコニコした和服の男性として、知らない人はいないでしょう。
「悟り」「覚醒」などをキーワードに、スピリチュアルという言葉が使われるようになり、1995年頃からは「ヒーリング」や「癒し」が徐々に知られるようになって、すっかり土壌が出来上がっていた日本に、スピリチュアルブームを巻き起こしたのは、まさに彼だと言えます。
2004年、占い師の細木和子のテレビ番組「ズバリ言うわよ!」や、2005年の江原啓之と美輪明宏が出演する「オーラの泉」がヒットすると、スピリチュアルという言葉は一気にメジャーになりました。
特に高次の霊のメッセージを伝達し、人格の成長を重視したスピリチュアル・カウンセラーである江原氏は大人気となり、スピリチュアルブームに火がつきました。
しかし、そもそもそれ以前から、日本のメディアでは度々、今で言う「スピリチュアルな人」を取り上げていました。代表的なのは、1970年代にスプーン曲げブームを日本にもたらしたユリ・ゲラー、UFO番組で有名な矢追純一などです。
明治時代にさかのぼると、ホラー映画「リング」の貞子のモデルとなった、超能力者、高橋貞子がいます。東京大学助教授の福来友吉は、高橋貞子を含む超能力者数名を協力者とし、念写実験をマスコミの前で行って、日本にセンセーションを巻き起こしました。
また、日本初のヨガ行者として中村天風がいます。中村天風は政財界のリーダーたちへスピリチュアルな教えを普及しました。その中には松下幸之助や稲盛和夫など、多数の財界人がいたと言われています。
2.3 分かるようで分からない、スピリチュアルカウンセリングってなに?
スピリチュアルという言葉を使うとき、「スピリチュアルカウンセリング」の意味が含まれることがあります。
スピリチュアルカウンセリングとは、スピリチュアルを用いたカウンセリングのことですが、これは江原氏によるものが大きいと考えられます。
スピリチュアルカウンセリングという言葉が世に認識されたのは、先出した江原氏がパーソナリティを務めた、ニッポン放送の「江原啓之の幸せのレッスン」(2008年3月24日放送終了)の「スピリチュアルカウンセリング」というコーナーからではないでしょうか。
その後、スピリチュアルカウンセラーと看板を掲げる人達が増え、様々な手法で独自のカウンセリングを行い始めました。2013年には「日本スピリチュアルカウンセラー協会」という民間の協会もできています。
カウンセリングの方法は、高次の存在からメッセージを聞いて伝える霊視や透視、霊媒などのチャネリングと呼ばれるものです。そもそも「カウンセリング」の意味を調べてみると、
心理相談のこと。健常なクライアント(来談者)がいだく心配、悩み、苦情などを、面接、手紙、日記などを通じて本人自身がそれを解決することを援助する方法
ーブリタニカ国際大百科事典 小項目辞典より引用
とあります。スピリチュアル・カウンセリングは、なんらかの悩みを抱えている人が、高次からのメッセージを伝えることのできる人に相談し、その人を通して高次の存在から問題解決のヒントをもらうこと、と捉えることができます。
あるスピリチュアルカウンセラーは、自身のブログの中で、『私は確かに「霊能者」と思われていますが、私自身は「霊能者」では無く、 「霊能力を用いてるカウンセラー」と思っております』と言っています。
また、ある人のサイトでは、『スピリチュアル・カウンセラーは、スピリチュアルの観点からさまざまな事象の不健全な部分を指摘し、それを取り除くための方策をあたえてくれる』ものだと定義づけています。
2.4 ヒーリング、占い、霊視、霊能者とスピリチュアルの関係
スピリチュアルという意味において、神秘的なものを指す場合もあります。
神秘的なものとは、占いやエネルギー遠隔ヒーリング、人にパワーをもたらすと考えられている「グッズ」や「場所」のことです。
占いや霊視、ヒーリンググッズなどが人気がある理由は、目に見えないものを扱う、特別な能力のある人や物に託せば、常識では考えられないところで何か解決策が見つかるかもしれない、という期待や魅力があると言います。
ヒーリングや占い、霊能者などにかかる人には、次の3つがあるとのこと。
1.努力なしで今までのことが一気にリセットされ、本来の素晴らしい自分になれるという変身願望
2.チャネリングなど専門的能力を備えた肯定的な言葉や雰囲気などによってもたらされる、深い安心感とリラックス、そして神秘体験
3.非日常の中で体験する、自分だけの特別なメニューや特別な自分との遭遇により、人生や自分という存在の意味づけや優越感
ーWikipediaからの引用による
商品としてのスピリチュアルは、カウンセリングやセラピーのみならず、以下のものが市場を大きく占めています。
- パワーストーンやオーラソーマ、ホメオパシー商品、フラワーレメディ、アロマ商品などのヒーリンググッズ
- いわゆる遠隔ヒーリング、遠隔セラピーと呼ばれるサイトから配信されるエネルギー
- 瞑想の誘導を支援するwebヒーリングやヒーリング音楽や映像などのオーディオ商品
こういったものの効果は実証が示されているわけではありません。しかし、買い求める人は後を絶ちません。薬学の世界でもプラセボ効果などがあるように、使う本人の心が満たされ、癒されれば、それは効果と同等であると考えることができます。
※プラセボ効果
プラセボ効果とは、元々薬の実験からきた言葉で、効果のある成分が含まれていなくても、「効果がある」と信じていれば本当に効いてしまうことを言います。
2.5 おかしな日本のスピリチュアル
現在、日本でスピリチュアルといえば、スピリチュアルビジネスのことを指していると言っても過言ではありません。
物質世界を嫌う立場であるニューエイジから、「真の世界」や「本当の自分」という要素だけを取り出し、ニューエイジとは対極にあるビジネスとを融合して、スピリチュアルビジネスという独自の分化を確立しています。
核家族化が言われ始めた昭和後期から、更に家族の中でも個人化が進む現代で、人とのコミュニケーションが希薄となり、ストレスや悩み、不安を抱える人が増えました。それは鬱病が現代病と言われることを見ても明らかです。
そんな中で、癒しや許しを求める不安や悩みを持つ人と、頑張ることではなく「ありのままの自分」を認めることや、本当の自分に目覚めること、目に見えないパワーによって癒されるというスピリチュアルツールが、うまく合致したと言えるでしょう。
自己の成長や悩み・ストレスの解消などでスピリチュアルを用いることは、現代社会にマッチした有効な手段です。人を癒したい、幸福にしたいと願う気持ちは尊く、貢献したい意識から活動するカウンセラーやヒーラーは、実際に多くの人の助けとなっているでしょう。
しかし、悩みや不安などの弱みにつけこんで商売をする、いわゆる「スピリチュアル商法」も同時に蔓延しているのが現代です。昔の新興宗教の壺商法のように、「あなたには悪い霊がついているが、これを買えばすぐに解決します」と言って、高額のお金を要求する類いのものです。
インターネットの普及もこれに拍車をかけています。インターネットは誰でも情報を発信でき、誰でも手軽にアクセスできます。そのため、「人生を前向きに生きるノウハウ」や「霊性を高める生き方」「ステージを上げる方法」など、スピリチュアル情報を入手しやすくなっています。
ただし、本物と、間違った情報との区別もつきにくくなっているのも事実です。そのため自分にとって都合の良い、「何もしなくても幸せになれる」「念じるだけでほしい物が手に入る」というような耳障りの良い事を謳っている情報に、安易に飛びつく人も増えています。そんな人達を悪用しているのがスピリチュアルビジネスなのです。
一人一人の人が、家族や周りとのコミュニケーションが希薄になっている現在、悩みを人とのかかわりの中で解決することが難しくなったことに加え、スピード社会でもある現代では、一気に物事が好転し、解決してほしいという欲求が高まっていることも、スピリチュアルビジネスに拍車をかけていると思われます。
文学博士の櫻井義秀氏は、今日のスピリチュアルビジネスを、こう指摘し、警鐘を鳴らしています。
ほんの少しだけ「不安」を煽り、安易な「癒し」を差し出せば判断能力は歪められ、人は喜んで搾取され続けるのだ。その危険性について現代人はあまりに無防備である。
ー『霊と金―スピリチュアル・ビジネスの構造』 (新潮新書) 櫻井 義秀著 BOOKデータベースより引用
まとめ
日本は元々、目に見えないものを信仰する風土であったため、スピリチュアルという概念が「精神の世界」としてすんなりと受け入れられました。
スピリチュアルビジネスには、自身の霊的成長や、心身の鍛錬などの自己啓発的な需要もあります。しかし、多くのスピリチュアルに興味のある人びとの主な関心は、開運や心身の不調の改善、現世利益や実益にかかわるものです。
元々のニューエイジ運動の概念である「物質主義を嫌い、精神性を重んじる文化」というところのスピリチュアルは、現代日本では物質的な豊かさや、人間関係などの改善の手段としてのスピリチュアル文化に変化し、独自の世界を作り上げたと言っても過言ではないでしょう。
本来のスピリチュアルの考え方を正しく理解して、日々の暮らしを豊かにするために、上手に取り入れていきたいですね。
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